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こんにちは!先輩

こんにちは!先輩

黒川典枝先生
山口大学医学部附属病院 特命教授
医療人育成センター・総合診療部

「女性医師としての矜持」

 2015年1月に医療人育成センター副センター長および総合診療部部長に着任しました黒川典枝(くろかわふみえ)です。医療人育成センターでは、卒前卒後のキャリア形成の相談を中心に、若い医療人をサポートします。総合診療部の立場では、一般内科の診療を行うとともに、医学部学生の講義・実習に各学年にわたり関与しています。

 今回このような機会をいただきましたので、私が歩いてきた道を少し振り返ってみようと思います。しばし、お付き合いください。

 「原体験」というのは、「その人の思想が固まる前の経験で、以後の思想形成に大きな影響を与えたもの」だそうです。とすれば、私には、女性医師としての「原体験」といえるものがあります。まずは、そのエピソードからお話しましょう。山口大学医学部の学生時代(2年生ころだったと思いますが、、、)、夏休みを利用して山口県内のある総合病院で2週間見学をさせていただきました。その初日に、医局長かと思われる先生から「君が医学部に合格したために、一人男性が医師になれなかったかもしれない。一生、しっかり仕事をするように。」とかなり激しい口調で言われました。初対面の先生から怒るように発せられた言葉に、驚くばかりであっけにとられました。同席していた看護部長さんから後になってその怒りの理由を教えられました。数週間前にその病院のある女性医師が急に退職され、その科の医師が不在となり、休診になってしまっていたのです。その後2週間いろいろと見学させていただき、有意義な時間を過ごしましたが、一番心に残ったのは、初日のあの先生の言葉でした。

 今考えてみると、このエピソードにはいろいろな意味が込められているように感じます。ひとつには、医師というものは、「社会の財産」であるということ。多くの血税が注がれて医師を作りだしていることは、皆さんご存知のとおりですが、社会に対する責務を私たちが十分に認識しているかと問われれば、必ずしもそうではない人もいるように思います。女子医学生の中にはアンケートに「結婚し子供を産んだら、仕事をやめて専業主婦になりたい」と書く人が実際にいます。そういう人は医学部に入学すべきではない。医学部は単に医師免許を取得するための場所ではありません。医学生や若い医師の皆さん、社会が私たち医師に何を期待し、どこで最も必要とされているか、目を開いてよく見て自分の進むべき道を決定してください。後輩たちにはそうあってほしいと心から願います。

 私は、山口県生まれの山口県育ち、下関市の長府という小さな城下町で育ちました。昭和59年に山口大学医学部を卒業し、消化器内科(第1内科)に入局、肝臓なかでも肝がんが専門です。恩師の沖田極先生の薫陶をうけ、学会活動を通じて知り合った多くの先生方に教えを受け、刺激されて仕事を続けてきました。プライベートでは、卒業後2年目に同級生の脳外科医と結婚し、結婚後8年目にようやく一人娘を授かりました。多くの方に援助していただき、子育てと仕事を続けました。その娘も大学を卒業し、子育ては一段落しました。医師としては、勉強しても勉強しても足りないことばかりで、一生学び続けるのが医師の仕事だと実感しています。逆にいえば、何らかの理由で学ぶペースが一時期遅くなったとしても、あせる必要はないと思います。こつこつと自分のペースでたゆまず仕事をしていくことが大切だと感じます。

 この原稿のタイトルを「女性医師としての矜持」としました。「矜持(きょうじ)」とは「自分の能力を優れたものとして誇る気持ち。自負。プライド。」という意味らしいのですが、私にはある種の「覚悟」も含まれた言葉のように感じられます。この「覚悟」をもって、必要とされるところで今しばらく仕事を続けたいと考えます。

プロフィール

現職
山口大学医学部附属病院 特命教授 医療人育成センター・総合診療部
出身地
山口県下関市
出身大学
山口大学医学部
卒業年
1984年