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こんにちは!先輩

こんにちは!先輩

上田佳代先生
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 環境衛生学講座・准教授

「参考までに、こんなキャリアもあります」

 新しい年度が始まり、工学部の学生に講義をする時期になりました。教室にいる150人の、「病気」や「健康」について考えたこともない工学部学生を前に、具体的な事例をあげ、教室中を歩いて質問しつつ(もちろん居眠りさせずに)講義することは、「疫学」を新たな切り口でとらえ、かつ自分の理解を深める貴重な機会でもあります。

 医学部を卒業した多くの医学生のみなさんは、医療機関で臨床に携わり、また、教育(基礎医学、社会医学)や行政の分野に進まれる方もいるかもしれません。私が在籍しているのは京都大学工学研究科都市環境工学専攻というところで、臨床医学とは少し離れた研究・教育に携わっています。

 医学部を卒業するまでは、公衆衛生分野にも興味があり、講義をさぼって法学部のゼミに参加することもありました。卒業後はまずは臨床がしたい!ということで、内科医として研修医時代を修了した後は山口大学医学部第二内科に入局し、数年間、循環器疾患の診療に携わりました。道をはずれたきっかけは、元々留学がしたい、という希望があり、せっかくだったら語学留学でなく、英語で公衆衛生を学ぼうと思い立ったことです。運よく米国の公衆衛生大学院に合格し10か月の留学を終えたのち、山口大学の衛生学教室で環境保健の分野で研究を始めることとなりました。その後、国際学会で偶然出会った日本人研究者に声をかけられたのがきっかけで(環境疫学という分野の研究者は日本では非常に少ないため、国際学会で張り込んでいたと後に上司から聞きました)、つくばの国立環境研究所で本格的に疫学研究を進めることになりました。数年後、やはり研究所での人とのつながりが縁となり、現在の職場にいます。

 仕事は、研究(学生とともに1日中パソコンとにらめっこ、統計解析)、教育(工学部の学生が寝ないように分かりやすく疫学を教える)、時々、国内外出張(研究打ち合わせ、学会発表)、国や地方自治体の会議への出席などでしょうか。現在の職場では、医学のバックグラウンドをもつ私は完全なマイノリティーではありますが、少ない共通のトピックから研究の妄想をふくらませてニッチな仕事をしています。マイノリティーであるがゆえ、競争が少ないのが強みといえます。また、大きなデータを使って統計解析をする上では、医療と異なる現在の職場にいることが非常に役立っているのではないかと思います。

 さて、みなさんの理想のキャリアモデルになっているかと聞かれると、バツ1子なし、アラフィフとなった私としては、必ずしもそうではないかもしれません。一方で、自分の好きなように人生を歩んできている(と思っている)ので、こういうのも多様な人生の一つであってもいいと思います。これをお読みになる若手女性医師の皆さんにとって、仕事もプライベートも「初めて」のことが待ち構えています。ワクワクしませんか?自分にとって初めてのことだけでなく、これまで前例がないことでも、考え悩むより、実際に行動を起こすと案外うまくいくものですし、必要な情報も探せばある程度みつけることが可能です。困ったときには自分一人で溜め込まないで周囲にSOSを出せば意外と助けてくれる人も多く、世の中捨てたものでもないです。脇道にそれてから、いろいろな経験(留学、単身赴任、離婚、他分野・海外研究者との共同研究、留学生の教育)を積み重ねて思うのは、どのようなことでであっても、すべては人生を豊かにする「経験」であり、「失敗」はない、ということです。これまでに「こんにちは!先輩」に寄稿いただいた先生方も同様の思いではないかと思います。最近では、仕事も私生活も同時に成功させている、素敵なキャリアモデルとなる若手の女性研究者(医師でもある)も多く、頼もしく感じます。

 人の縁は、棚から落ちてきたぼた餅に例えることができると思います。自分自身では、落ちてくるぼた餅の場所やタイミングをコントロールすることはできません。しかし、落ちてくるぼた餅に気づき、そのぼた餅を素早く受け取る瞬発力と腕力(特に大きなぼた餅の場合は)を、日々精進して磨いていれば、いつか必ず、大きくておいしいぼた餅をほおばることができるのではないかと思います。これは言い過ぎですかね。

プロフィール

現職
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 環境衛生学講座・准教授
出身地
山口県周南市
出身大学
北海道大学
卒業年
1994年