Medical Student

= わたしは医学生 =

Interview

重光紗文さん 山口大学 医学部医学科6年

Interview

重光紗文さん 山口大学 医学部医学科6年

患者さんの、その家族を診ること

患者さんの、その家族を診ること

 はじめまして、山口大学医学部医学科6年の重光紗文と申します。現在は、病院の様々な診療科で臨床実習を行わせていただいています。コロナ禍でありながら、学生を受け入れご指導してくださる先生方には感謝の念に堪えません。実際に臨床の現場で学べることが、決して当たり前ではない事を忘れずに実習に励もうと日々考えています。

 ここで簡単に、私が医師を志した理由について紹介したいと思います。私は、小さい頃お世話になった優しい小児科の先生への憧れから、将来の職業に医師を考え始めました。しかし医師になると、はっきり決めていたわけではなく、小中学生の頃はピアノの先生や絵本作家になりたいと思った時期もありました。ただ高校時代に、病気と闘う同年代の子、自分よりも幼い子の存在が身近にあり、“病気が障害となることなく、皆が様々な経験をして、大人になって生きていけたらいいのに”と考えるようになりました。今考えると高校生にしては少し大それたことを考えたものだな、とも思いますが、現在もその考えを大切に持っています。それから、本格的に医学部入学を目指し、一年の浪人生活は経ましたが、現在なんとか医学生になることができています。

 今回、「わたしは医学生」の執筆という大変貴重な機会を頂き、しかし何を書こうかと思い悩みました。悩んだ末、自分の経験・実習を通して一つ考えたことがあり、今回はそれを記したいと思いました。拙い文章ではありますが、少しでも目を通して頂けたら幸いです。

 私は大学生になって、ある年末に、親族皆でハウステンボスに旅行に行きました。船に乗ったり、展望台にのぼったりして、夜にはイルミネーションを見に行こうなんて話をしていました。しかしその晩、親族の1歳の子が39℃台の熱を出しました。病院に連絡したところ、「一晩様子をみてください。」とのお返事で、病院には行かずホテルの部屋で過ごしました。高熱を出し、顔を真っ赤にするその子のことが心配であるのと同時に、不安そうに見守るその子のお父さん、お母さんを見ていると、心苦しくなりました。医学生である私は、何かわかることはないかと聞かれましたが、当時参考になる返事はできず、自分が情けなくも感じました。その晩、二人はあまり眠れなかったようです。その後、翌日の朝にはその子の熱は下がり、それからは元気で、楽しそうにトーマスの機関車に乗る姿を見ることができました。大事に至らずよかったと安堵するとともに、将来の診療科に小児科を考えていた私は、もし小児科医になるならご両親の力にもなれる医師になりたいと思うようになりました。

 それから時が経ち、臨床実習が始まり、小児科の現場で学ぶ機会がありました。実習前は、病院の子供達のご家族はきっと大変だから、表情も固いのではないかと考えていました。しかしお会いしたご家族の表情は、想像より穏やかで、時折笑顔をみることも多かったように思います。特に、熱が下がったり、痛みがなくなったりして、少しでも症状が改善すると嬉しそうに報告してくださりました。治療がうまくいかない際も、先生に疑問点を質問されながら、前を向いていらっしゃいました。子供のために懸命で前向きな姿に、心打たれました。これから先の医師人生で、病気と闘う子供達とご家族のために働くことは、大変意味のある、やりがいのあることのように感じました。

 「小児科医は、子供のそのご家族も診て、力になることが大切なんだよ。」との言葉を、先生に頂いたことがあります。自分が以前から感じていたことは、実際に小児科医の先生が心に留めていることなのだと、はっとしました。一か月検診の際に、お母さん自身睡眠はとれているのか、心は疲れていないか確認したり、自宅での管理方法についてご家族に丁寧に説明されたり…挙げたらきりがありませんが、一人一人のご家族と真摯に向き合う先生方の姿は今でも心に残っています。こんな先生方のようになりたいと、強く思いました。

 小児科での実習期間は短いものでしたが、今後も忘れることのない経験をさせて頂きました。

 世の中には、虐待やネグレクトがあるという事実があり、子供を守らなければならない時もあります。その点でも、医師がご家族にしっかりとアンテナを張ることは、求められる事だと感じます。それは決して容易ではありませんが、子供を診る際には、様々な視点からご家族も診ることができる医師になりたいです。

 これまで、小児科について書き綴ってきましたが、私は小児科医になると決め込んでいるわけではありません。もちろん小児科に対する思いは強いですが、今は悩んでいい時期だから、広い視野をもって色んな診療科をみたいという気持ちがあります。ただ成人の患者さんであっても、そのご家族を診ることはもちろん必要で、どの道でも心掛けていきたいと思います。

 実習中、患者さんやご家族が「お願いします。」と先生の隣にいる私の目を見て言われることがあります。その度に“私は何もしていなくて、むしろ勉強させていただいている方なのに…”と申し訳なく感じています。いつか「最善を尽くします。」と、力を注ぐことができるように、これからも将来に向かい邁進していきたいと思います。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。