Medical Student

= わたしは医学生 =

Interview

堤 春菜さん 山口大学 医学部医学科4年

Interview

堤 春菜さん 山口大学 医学部医学科4年

人生は一度きり

人生は一度きり

 みなさん、こんにちは。医学科4年の堤春菜と申します。

 私は一度社会に出てから、山口大学医学部医学科に編入しました。今回、「わたしは医学生」の執筆という貴重な機会をいただきましたので、遠回りをしながらも医師を目指して奮闘している医学生の視点からこのコラムを書きたいと思います。

<これまでのこと>

 私は、大学で看護学を学び、その後すぐに大学院の公衆衛生学修士(MPH)課程に進学し、ヘルスサービスリサーチ分野で疫学や統計学、データ分析に基づく政策提言などを学びました。大学院修了後は、公衆衛生の学びを地域での実践活動に活かしたいと考え、東京の下町の保健所で保健師として4年間勤務していました。そこでは、母子保健・精神保健・健康づくりに携わり、家庭訪問、乳幼児健診、健康教育などの様々な業務に取り組みました。このように公衆衛生の道をまっしぐらに進んでいたのですが、保健師時代の経験と家族の経験から医学の道を志しました。

<医師を目指したきっかけ>

 保健師として働いていたときに、児童虐待・DV・精神疾患・自殺未遂・生活困窮などの複雑な心理社会的問題を抱えた人たちへの支援を行うことがしばしばありました。その中には救急医療につながる人もいたことから、“救急医療は、疾患だけでなく、地域で生活している複雑な背景を抱えた人たちへの重要な介入の機会である”ということを実感するようになりました。それと同時に、『病気はもちろん、生きづらさを抱えた人たちも救える医師』に自らがなれたら、と思うようになっていました。しかし、保健師という仕事がとても好きで、やりがいも感じていたため、医師になろうと行動することはありませんでした。

 そうしているうちに、仕事をして3年目の夏、父が心肺停止状態で救急搬送されたと連絡がありました。仕事を切り上げて急いで駆けつけると、父はなんとか救命され、心臓は再び動き出したものの、脳に大きなダメージを受け、医療機器なしでは生きられない状態となっていました。突然の出来事で大きなショックと悲しみがある中、「あと数日しか生きられないかもしれません」「臓器提供の意思表示は確認していますか?」「もう一度心臓が止まったらどうしますか?」などと言われ、家族として、父の命に関する選択と決断をしなければならない日々が続きました。命に向き合うことは、とても辛く重いことでした。しかし、この家族としての経験が、“救急医療の現場で働く医師になりたい”という気持ちを強め、学士編入に踏み切る大きなきっかけとなりました。

<いつも誰かに支えられている>

 学士編入を決意してからは、昼間は仕事、夜と週末は受験勉強、時々父の看病と、怒涛の日々でした。そして、家族の理解や、同じように学士編入を目指す素晴らしい仲間、友人、職場の人たち、学生時代の恩師など、たくさんの人たちに支えられて、医師になる道のスタート地点にたどり着くことができました。

 編入後は、とても充実した学生生活を送ることができています。医学の勉強は、覚えるべき知識が膨大で、試験もたくさんあって大変ですが、将来につながる勉強ができる喜びと楽しさがいつもあります。『こんなことを学びたい!』といったときに、それを受け入れ、学びの場を提供してくれる先生方が多いことも、大変嬉しく、ありがたく思っています。低学年や女子医学生に向けた短期研修の機会を利用して県内のいくつかの病院の診療科で研修をさせていただいたり、定期的に救急医療の現場で勉強させていただいたりもしています。そこで得られた医学的な学びはもちろん、出会う先生方それぞれの診療にあたる姿勢、人生経験や想いを知ることも、勉強の大きなモチベーションにつながっています。それから、勉強熱心な友人・同級生・先輩・後輩たちの姿にもいつも刺激を受けています。また、地域の方々や、売店、医学部図書館、学務の方々などからもあたたかいことばをかけていただき、大変お世話になっています。

 このように、いつも誰かに支えられて、日々過ごすことができています。支えてくださる周りの人たちへの感謝の気持ちを忘れないようにしたいと思います。

<人生は一度きり>

 編入して半年後、父は2年間の療養生活を経て、意識が戻らぬまま他界しました。父は最期に、突然の悲しい出来事を受け入れ、また前を向けるようにと、私たち家族に2年間という時間を与えてくれたのだと今は思っています。父のことや、保健師時代に出会った様々な人生背景を抱えた人たちへの支援の経験を通して、“人生は一度きり”ということをとても痛感しました。人生には限りがあるからこそ、できるだけ早めに、自分がどのような人生を歩んでいきたいのかを考え、それに向かって道を選択し、進んでいくことはとても大切なことではないでしょうか。

 私は、一度きりの人生ならば、『人の役に立つ人生』を歩んでいきたいです。多くの人との関わりの中で、医学の知識・技術、豊かな人間性を身につけ、自分が得た学びや経験を人のために活かしていこうと思います。