Medical Student

= わたしは医学生 =

Interview

宮里衣望さん 山口大学 医学部医学科3年

Interview

宮里衣望さん 山口大学 医学部医学科3年

ここで、咲くために

ここで、咲くために

 はじめまして。山口大学医学部医学科3年の宮里衣望と申します。
このたび執筆依頼をいただいてから、過去に書かれた先輩や後輩の記事をひととおり読ませていただきました。皆さん医療に対する熱い思いを胸に入学され、自らの明確な目標をお話しされていて頭の下がる思いでした。私は普段のテストや実習についていくのに精一杯で、将来についてもまだ模索している状態です。こんな私が執筆するのは非常に恐縮なのですが、折角の貴重な機会をいただきましたので、不器用なりにここ医学部で色々と悩み奮闘している現状についてお話しします。参考になれば幸いです。

 まず初めからお恥ずかしい話なのですが、私は自らの意思のもとで医学を志したわけではありませんでした。医者家系に生まれたため他の進路を選ぶことが許されず、周囲の大人の圧に負けての不本意な医学部進学だった、というのが正直なところです。しかし、医学部での生活はテストや実習で毎日忙しく、強い志を持たずして乗り越えるにはなかなかにハードです。この頃の私にとっての課題は「医学生として何をするか」ではなく、「医学生になった自分を受け入れられるか」であり、ハードな生活の中、心が折れそうになりながら葛藤する毎日でした。周りの皆は、やっと医学に触れられるとやる気に満ちている真っ最中。スタートの時点で私は周りから遅れをとっていました。

 ようやく現実と向き合えるようになってきたのが2年生の秋ごろ。理由ははっきりとはわからないのですが、解剖実習や実験マウスの使用を通して、こんなにも命をいただいて学ばせてもらいながらもう無責任に引き返すことはできない、と感じていたのが大きかったような気がします。同時に、このころから医学生生活の忙しさに慣れ、心に余裕が生まれ始めてもいました。心に余裕ができるとプラス思考になりますし、今までしてこなかったことにも意欲的になれます。幸い私の周りには医学生向けの活動に積極的な志の高い友人や先輩が多く、誘ってもらえることも多かったので、少しずつ医学生向けの活動や先生方の講演に参加してみるようになりました。医師免許を取得した先にも、私の想像をはるかに超える沢山の選択肢がありました。研究医と臨床医、診療科の違いといった分類の中にもさらに細かな区分がありますし、医師であり医学に精通していることを活かしながら、一見全く毛色の異なる仕事でご活躍されている方もいらっしゃいます。そして、どなたも自分のスタンスを通じて今を輝かれています。そのような方々とお会いし、圧倒されて憧れているうちに、気づけば私も「医学ってすごい、医師ってすごい」と医師になるのであろう自分の将来に希望が持てるようになりました。

 「医学生になった自分を受け入れる」という課題をクリアした私は少しずつ将来のキャリアについて考えるようになりました。しかし、どれだけ検討しても自分が何に向いているのか興味があるのか分からず、クリアなビジョンを描くことができません。そんなとき、短期研修でお世話になった先生と将来についてお話しする機会があり、こんなアドバイスをもらいます。“最初から具体的な目標を持ち、その実現をめざして一直線に努力できるのは本当に立派なこと。でも、途中で諦めざるを得ないハプニングが起こるかもしれないし、新たな出会いにより想定とは違う道に進むかもしれない。だから目指す先が明確にできていないことに焦る必要はなくて、それよりも大切なのはこの先もぶれない「自分」を持つことだ”と。

 この時の私は出会った先生方の勢いにただただ圧倒され、自分も「なりたい医師像」をはやく明確にして突き進んでいかなければ、と妙に躍起になっていました。先生のアドバイスをもとに、少し肩の力を抜いて「なりたい医師像」よりも「なりたい人間像」を想像するようになってからは気持ちが楽になり、結果、1つ1つの物事を落ち着いて見られるようになった気がします。もちろん今でも、どんな医師になりたいのか、何科に進みたいのか、はたまた研究がしたいのか、いつもアンテナを張って模索しています。ですが、この「なりたい人間像」は今後私がどんな選択をし、どんな将来を歩もうとも目指し続ける本当の意味での最終ゴールになるのだと思います。

 このような次第で、現在私は医学生という立場から「自分がなりたい人間像」をめざし日々奮闘している状態です。不本意入学から始まり、どうなるのだろうと思っていた私の医学生生活も気づけば3年目となりました。今は忙しいながらも充実した毎日が楽しいですし、決して当たり前ではないこの環境で頑張るチャンスがいただけることに喜びを感じています。私にとってこの変化は大きなもので、現状を受け入れて、それでも投げやりにならずに行動を起こしてみればどんな現状も自分にとってプラスに変えられるという自信につながった経験です。しかし、これは自分の努力だけではなく、環境に恵まれ、出会いに恵まれ、沢山の人に支えられてこその結果です。本当に感謝しています。今後は私からも恩返ししていけるよう、謙虚に日々研鑽していきたいと思います。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。
最後に、私の好きな言葉を紹介して終わりたいと思います。
「置かれた場所で咲きなさい」という言葉をご存知でしょうか。出身高校の学園理事長が残された言葉なので私にとっては馴染み深いのですが、ミリオンセラーとなった本の題名として耳にしたことのある方も多いと思います。置かれた場所がその人の居場所。どんなところでも「環境の奴隷」になるのではなく、感謝し笑顔で前向きに。沢山の困難を乗り越えてこられたシスターからの、素敵な教えが1つに詰まった言葉です。

 私もようやく居場所で根をはり始めたところなのかなと感じています。ですが土の上に芽を出すにはまだまだ未熟な存在です。この先大変なこと、辛いことも沢山経験するのだと思いますが、良かったことも悪かったことも成長するための大切な肥料なのだと信じ、いつか私もこの置かれた場所で、私なりに咲くことができればと願っています。