Interview
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謙虚に学ぶ
謙虚に学ぶ
皆様はじめまして。山口大学医学部医学科3年の松原奈穂と申します。このような機会を頂き、大変恐縮ですが筆を執った次第です。
さて、早速ですが4年生への進級を控え、年明けから臨床の講義が始まりました。これまでの授業と変わり、漸く病態系の勉強ができると初めは楽しみにしていました。しかしながら授業内では様々な疾患とその診断方法や治療方法、実際の症例提示など内容も多岐に渡り、現場で働かれている先生方のお話を聞くに連れて、医師という職業の大変さ、必要とされる技量・知識の多さに驚きとショックを隠せないでいます。本当に私はこのまま医師になれるのか、という不安が脳裏をよぎるようになりました。そんな時、二つの出来事をきっかけに私自身の心と向き合う機会がありました。今回はその体験をお話しようと思います。
一つ目は、医学部入学前に記した志望理由書を偶然見つけたことにあります。志望理由書は出願の際に大学に提出したものですが、皆様はご自分が何を書かれたか覚えていらっしゃいますか。私はお恥ずかしいことに、先日までその内容をはっきりとは覚えていませんでした。以下、その一部を紹介します。
「私は、患者の抱える不安や悩みを軽減し、よりその人が暮らしやすくするための手助けができる医師になりたいと思っています。 ~中略~ 人が生活する上で大切な健康の維持・向上に直接携わることができる点に医師という職業の魅力を感じているからです。医師には、コミュニケーション能力、日々勉強し続ける姿勢、提供する医療に責任を持つことが不可欠です。また医療は医師単独で行うものではないため、自分自身の考えに固執せず、他の人の意見にも考えを巡らすことでより良い医療に繋がると思います。 ~中略~ 医療に生涯を通して貢献していきたいと考えています。」
少々長くなりましたが、当時高校3年生だった私が記したものです。多少背伸びをした表現も見受けられますが、私の本心であることは間違いありません。これを目にした時、どんな思いで医学部を選んだのか、どんな医師になりたいと思っていたのかを思い出しました。医師として患者さんに寄り添い、社会に貢献できる人でありたい。この思いは今でも変わりません。最近は与えられた試験をこなすことに夢中で、医学部で学ばせてもらっているその意味を忘れかけていたことを反省するばかりです。
もう一つの出来事は、ある医師の方のインタビュー記事を読んだことにあります。その方の言葉に、「人間だから間違っても仕方ないと思わないこと。医師になるとは、患者さんから信頼を得るということです。だからその患者さんの信頼を裏切らないように、常に自分は間違っているのではと思って、細心の注意を払いながら患者さんを診なければいけません。」とありました。
またしても、頭を殴られたような感覚になりました。「間違っても仕方ないと思わないこと」という言葉の重みを強く感じたからです。医師は提供する医療に責任を持つことが必須ですが、この責任とは患者さんの信頼を得る任務・責務という意味が強いのだと思います。医師という職業は、中途半端な思いでは務まらないのだと改めて理解しました。そして私の思い描く「患者さんに寄り添う医師」になるには、患者さんから信頼を得ることができて初めて実現するのではないかと考えるようになりました。
私がこの先を不安だと感じている要因、いわば今の膨大な量の学習量は「患者さんのために何ができるか」、そして「患者さんの信頼に足る人」であるために必要不可欠なものだと気付きました。普段の試験や国家試験のために勉強することが当然だと思っていましたが、それは違いました。勿論国家試験に合格して医師になることは大前提ですが、ゴールではありません。学生期間は知識を蓄える第一ステップ、医師としての人生を歩む上での通過点です。話は少し戻りますが、患者さんの信頼を得て、寄り添うことのできる医師になるために必要なことは何かと聞かれたならば、私は「謙虚に学び続けること」と答えます。謙虚に学ぶというのは新たな知識を身に付けるだけでなく、他の医師・職種の方から学ぶこと、さらには患者さんから学ぶことも含まれると思います。学生の今に置き換えると、先生方や同期から学び、貪欲に知識を吸収していくこと、学びを楽しむことだと思います。私の感じていた不安は、入学当初の気持ちを忘れて、謙虚に学ぶ姿勢が足りないことによるものだったのでしょう。私自身が未熟であることは当然ですから、不安に思うのではなく、まだ勉強することは沢山ある、と自分を奮い立たせることが重要なのだと思いました。そう考えると不思議と不安な気持ちは和らぎ、再び今後の勉強が楽しみだと思えるようになったのです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。自分の心と向き合う機会など滅多になかったので、記憶に残すためにも文章に起こしてみました。学生生活は残り3年という折り返し地点ですが、この先にはCBTや臨床実習、国家試験というステップ、その後は医師としての人生が控えています。どんな時でも謙虚に学び続ける姿勢を忘れずに、一人の人間として社会に貢献できることを目指して、日々努力していきたいと強く思います。