Interview
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そういえば地域医療ってなんだろう
そういえば地域医療ってなんだろう
医学科4年の白坂菜津子と申します。
こんな機会を頂けるなんて恐縮で、何を書けば良いのやらてんやわんやしておりましたが、どうやら寄稿までにタイでバックパッカー…をなどという時間は無さそうですので、私が最近得た気づきを背伸びせず書いてみようと思います。
「もしかして地域医療とへき地医療を同じ意味で使ってない?」
面接指導のさなか高校の先生からそう指摘されたとき、私の『チイキイリョー』が『地域医療』になりました。“確かに地域医療とへき地医療を10秒以内に描け!”と言われれば、どちらも慌てて緑のクレヨンを探すような気がします。そこでは咄嗟に苦笑いしてうやむやにしてしまったのですが、その言葉が何となく心に引っかかっていました。
その後、私は緊急医師確保対策枠という制度で入学しました。これは県から奨学金を貸付していただく代わりに、貸付期間の1.5倍の期間、山口県で医師として勤務するという推薦枠です。特殊な制度なのですが、相変わらず「海がキレイでお刺身が美味しい所で小児科医したいな~」と脳内がお花畑だった私は、ふと先生との一件を思い出し、1年次の春、“これから地域医療を知れそうなものにはなるべく参加してみるぞ”ということを決めました。
まずは地域医療セミナーというものに申し込むことにしました。これは夏休みに自治医大、山口大などの医学生・看護学生が県内の過疎地域を訪れ、地域医療を体感することを目的とした合宿型医療実習です。
初めてのセミナーは長門市でした。そのとき私は医学の知識が全くなかったのですが、「医学生さん!ちょっといい?」と健康相談をしてくださる方や、聴診器のどちらの面を使えばと戸惑っている私にゆっくりと診察させてくださる方もいました。
どうやら私達は大学に入学した瞬間から医療従事者の一員として扱われるようなのです。別の機会ですが産婦人科へお邪魔した際、新品の白衣から学生証をぶら下げて緊急手術の説明を眺めていると、患者さんのご家族から「先生…娘をお願いします」と頭を下げられました。じ、自分はここにいますが何も知らないのです、本当にごめんなさい、と思いながらも「はい」と頭を下げた私は、罪悪感と無力感で顔を上げることができませんでした。正直に言うと、この年地域医療については今一つ分かりませんでした。しかしこんな方々を支えられるように絶対頑張るんだと決心がついたように思います。別の機会で訪れたデイサービスや老人ホーム、2年次に訪れた小児科でも私達に向けられた期待をひしひしと感じました。
しかし地域医療とは一体何だったんだろうか…と考えていた3年生の夏、若干ですが尻尾が見えてきました。この年は美祢市のとあるクリニックへ行きました。先生は外科出身の漢方内科医で、患者さん一人ひとりに「最近はどうかね。みんな元気にしとる?」「何でも相談しにおいでね」と気さくに声を掛けられていました。私もこんな先生に…と感動していたお昼時、ある患者さんから「あなた、ほんと良い先生のところに実習に来たねぇ」と嬉しそうに声を掛けられました。
公民館で笑いヨガのサークルに参加しました。そこで「今日○○さん来ちゃないね、」という会話がありました。“みんなで健康にならなくっちゃ~”という場面から授業で習ったオタワ宣言を思い出しました。これでみんな健康に気を付けるの?なんて少々疑っていたのですが、行政など関係なく自発的にコミュニティヘルスケアが実践されている地域もあったんです。
駅の休憩所の管理を地元の方が交代で行っているところでは、地域での役割ができてからめっきりお洒落になった方のお話を聞きました。
冬に離島の診療所にて「じゃあ今日のうちに紹介状を出しましょうね」という言葉がありました。その時点では経過観察をして翌日紹介状を検討しても良かったようですが、ご家族の多重介護もあり送迎はどうしてもその日が好ましいようでした。ご家族の生活やご本人の状態により処置を柔軟に変更されている姿を見て、地域医療の懐の深さを感じました。
他にも下関豊田町に行った際、この町で実践されている地域包括ケアシステムの様子を見ることができました。地域包括支援センター・病院・警察などの多職種の方々が、「あそこの角の○○さん」の最近の様子や困っていそうなこと、どんなサポートが必要かについて話し合っていました。地域包括ケアシステムってほんとにお年寄りが過ごす地域をまるく包括するケアシステムだったのですね!日本語ってすごいです。
息継ぎなく長々と失礼しました。これらの全ての体験から、私の中で地域医療のイメージが変わりました。実は『地域医療』とは「医療機関が行う医療行為だけではなく、地域住民が生き生きと安心して暮らすための隅から隅まで全てのこと!」だったんです。地域医療を区切って説明しようと思っても混乱するわけです。私達を元気にするのは薬や病院だけではありませんでした。それも勿論大事なのですが、“人のつながり”や“助け合い”や“思いやり”という精神も大事な要素でした。この定義はこれからも変化していくのでしょうが、ひとまず地域医療という言葉が少し熱を帯びて感じられました。
ようやく高校の先生と正面から話ができる気がします。こんなに時間がかかってしまったのは、しばらく目新しい医療行為ばかり注目して全体を見てなかったからでしょう。実際に働きだせばすぐに核心を掴めたのかもしれません。ただ個人的には低学年から地域医療に触れる意義は大いにあると思います。それぞれの学年で医学に対する経験値が違い、その時でしか活性化してない受容体があると思うからです。例えば何も知らないころは痛みに対して加持祈祷のような寄り添い方しかできないのですが、その心は不安を持つ患者さんやご家族が抱えるものに近く、そこで抱いた感情が将来共感力として咲いたり…なのではないでしょうか。
もしかすると初めのうちは地域医療を勉強するぞと張り切って実習に行っても、私のように知識不足の負い目と医療現場自体への興味から地域医療を俯瞰してみるゆとりがなく、代わりに別の気づきを得るかもしれません。そして何回か実習を重ねるうちに周りの色々な情報を掴めるようになって、あるとき思いもしなかった角度から真理に近いようなものが見つかるのかもしれません。
もしこれを読んでくださっている方がいらっしゃったら、ここで1つ地域医療の現場を見にいってみるのはいかがでしょうか。どのタイミングで行ってもきっと面白い発見があると思います。