Medical Student

= わたしは医学生 =

Interview

持田千幸さん 山口大学 医学部医学科5年

Interview

持田千幸さん 山口大学 医学部医学科5年

医師の卵を育む“繋がり”

医師の卵を育む“繋がり”

 私が生まれ育った東京を離れ、ここ山口の地で医学生としての生活を始めてから、早5年が経ちました。山口には母の実家があり、縁もゆかりもない地ではなかったのですが、実家が物理的にあまりにも遠すぎることへの不安、出身地や出身校のことを話しても今までのようには通じない不甲斐なさに、特に1年目の頃には孤独感を憶えていた記憶が、今ではもう、遠くかすかにあります(笑)

 私は根っからの文系人間で、理系科目はお世辞にも得意ではありませんでした。それでも山口にいた祖母の早すぎる死や、小学生の時シュバイツァーの伝記を読んで医師への強い憧れを抱いた経験から、頑として医学部を目指すことを決めました。文系の進路を選ばなかった時点で、大学受験は“いばらの道”でしたが、全国どこでも良いからどうしても医学部へ行きたい、でもできれば地縁のある土地が良いと考え、山口大学を受験、何とも運よく合格をさせていただきました。一度決めたことはあきらめたくない性格ですので、今思えば半盲目的に医学部を選び、その後の大学生活が一体どのようになるか、まったく予想もしないままに5年前、山口にやってきました。そして今になって感じるのは、ここに来たからこそ得られるかけがえのない経験を数えきれないほどさせていただいたということです。

 確かに、私たちは一般的に想像する“大学生”像とは、似ても似つかない生活を送っているとは思います。土日はテスト勉強に追われ、たまの気分転換は飲み会一択、臨床実習が始まってからはCOVID-19の影響もあり、病院と近隣スーパーの往復のみ。だからこそ自分と向き合う時間が多かったと、ポジティブに言い換えればそうなるかもしれません。自分が医学生時代にやりたいことは何なのか、時間があるときにはじっくり考え、それを余すことなく実行してこられたのではないかと、5年間を総じて振り返ると思えます。大学は高校までと違い、自発的に求めることで学びの幅が広がります。とはいえ、一学生ですから、周囲の支えも必要とすることは多々あります。そんな中、まず最初に私の学生人生を支えてくれたのは、恩師と呼べる存在との出会いでした。3年次の留学に関する相談から、現在の進路相談に至るまで、どんな時もどんな些細なことでも相談できる先生に巡り合えたことは、私にとってとても幸運でした。実は学内に留学プログラムが存在していることも一切知らずに受験をしていたのですが、大学でアメリカ留学することは中高時代からの私の夢で、先生とのめぐり逢いの中で実現することができたのは学生生活の最高の思い出の一つです。アメリカでの半年間の研究留学は、確実に私の人間としての幅を広げてくれました。生活の中に自然と国際的な視点が入り込み、その後の私の国際的な課外活動や、医学に対する勉強のモチベーション向上に直結していきました。現地の研究室でお世話になった医学生とは今も緊密に連絡を取り、近況を報告したり、将来のことを互いに語り合ったり、その度にどんなに離れていても同じ夢に向かって人一倍努力をしている彼女の姿に刺激を受け、私の日々の生活の励みとなっています。

 留学後は一層積極的に課外活動に励み、海外の医学生との交流や、学内の自治会活動、医学部周辺の地域活動にも取り組みました。それぞれの活動の中で、ユーモアにあふれ、そして温かな同期に恵まれました。コロナ禍で活動がオンラインに移行しても、この非常事態に何か私たちができることはないかとCOVID-19の勉強会やボランティアの場が開かれるなど自然と新たな同世代の輪が広がり、これから彼らと共に医療を担っていくのだと思うと、とても心強く、暗いニュースばかりの中で新たな希望も得ることができました。

 臨床実習が始まると、毎日が新たな発見と出会いの連続でした。2週間担当させていただく患者さんとは、私がまだ医学の側面で未熟なこともあり、毎日お会いしに行っては雑談ばかり、カルテに書ける所見は何もない日もままあるほど、雑談!ばかりしています。しかしそんな些細な雑談の中からは患者さんの思いや独特の価値観がひしと伝わり、どんな医者を目指していくべきか、毎日考える糧となっています。また、そんな雑談をする中でも、今まで私自身が経験してきた様々な経験が生かされてきているように感じています。さらに、臨床実習では、多くの指導医の先生方にもお世話になります。お忙しい中、学生に指導する時間を割いてくださっている先生方には、常日頃から感謝の念でいっぱいです。指導医の先生方との会話や、診療に当たられる姿を間近で見ながら、医学的知識の習得はもちろんなのですが、なぜこの分野を選ばれたのだろう、どんな気持ちで患者さんへの言葉を選んでいるのだろうと考えることは、何よりも勉強になります。今年はCOVID-19の影響で臨床実習中断が余儀なくされた時期もあり、患者さんや実際働かれている先生方との関りが、私の中でどれほど重要な学びであるかを再認識することとなりました。今後も先が読めない時期が続きますが、病棟で患者さんや先生方と関われる時間を最大限無駄にすることがないようにと思いながら毎日を過ごしています。まだまだ本当に未熟で、学ぶべきことが途方もなく多い身ながら、患者さんや指導医の先生方との関りを通して、医師という道を選んで本当に良かったと、私にとってはきっと天職なのだろうと心から思えています。

 コロナ禍を生きる今、これからも先が読めず、不安に思うことにも多く直面することだろうと思います。この原稿を書いている今も、県外の実家には帰省できないため、県内の祖父の家に久しぶりに滞在しています。山口に来なければなかなか会うことのできなかったであろう親戚たちと団欒し、心を支えてもらっています。人生はご縁と人々との繋がりの連続であり、関りと支えあいの中で生かされているのだということを、身をもって感じます。毎日のたくさんの方々との関りに感謝しながら、一歩ずつ確かに成長していきたいと思う今日この頃です。